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京都地方裁判所 昭和54年(ワ)1118号 判決

昭和五四年(ワ)第一一一八号事件原告

地方公務員災害補償基金

昭和五五年(ワ)第五八号事件原告

片山一子

昭和五四年(ワ)第一一一八号・

山川博行

昭和五五年(ワ)第五八号事件被告

ほか一名

主文

被告山川博行は原告片山一子に対し金五〇九万二〇三九円及び内金四七四万二〇三九円に対する昭和五三年六月六日から、内金三五万円に対する昭和五六年一月二二日から、被告大塚良夫は原告片山一子に対し金四五九万二〇三九円及び内金四二四万二〇三九円に対する昭和五三年六月六日から、内金三五万円に対する昭和五六年一月二二日からそれぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

被告らは原告地方公務員災害補償基金に対し各自金四三一万〇八八三円及びこれに対する昭和五四年八月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告片山一子と被告らとの間においてはこれを四分しその三を原告の、その一を被告らの各負担とし、原告地方公務員災害補償基金と被告らとの間においては被告らの負担とする。

この判決第一、二項については仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(昭和五五年(ワ)第五八号事件原告片山一子)

1  被告らは原告片山一子に対し各自一九八二万三六一四円及び内一八八二万三六一四円に対する昭和五三年六月六日から、内一〇〇万円に対する昭和五五年一月二三日からそれぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

(昭和五四年(ワ)第一一一八号事件原告地方公務員災害補償基金)

1  被告らは原告地方公務員災害補償基金に対し各自四五一万〇八八三円及びこれに対する昭和五四年八月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

被告山川博行は、昭和五二年七月七日午前七時二五分ころ普通乗用自動車(滋五五の二九八号、以下加害車という。)を運転し京都府船井郡和知町字本庄小字高瀬五の一番地先国道二七号線を時速約六五キロメートル(指定制限速度毎時五〇キロメートル)で北進中同所の左カーブにおいて自車右前部を対向車線に進出させ、折から対向南進してきた原告片山一子運転の普通乗用自動車(京五五ち第一三八二号。以下被害車という。)に自車を衝突させ(以下本件事故という。)、よつて原告片山に加療約一か年(入院加療二七五日間)を要する右大腿骨々折、右大腿骨外側顆部骨折、右膝関節内骨折、右下腿開放性骨折、右肘頭骨折、頭部外傷、顔面挫創、左膝挫傷の傷害を負わせた。

2  責任原因

(一) 被告山川の責任

被告山川は、当時路面が湿潤し滑走しやすい状況で道路が左カーブになつていたから制限速度を遵守し道路左側を進行することはもとよりハンドル操作を確実にし急激な制動措置を避けあらかじめ減速徐行すべき注意義務があるのに、指定制限速度毎時五〇キロメートルをこえる時速六五キロメートルで進行し急激な制動措置をとり自車右前部を対向車線内に進出させた過失により本件事故を発生させたものであつて、民法七〇九条による不法行為責任がある。

(二) 被告大塚の責任

被告大塚は、本件加害車の保有者であり加害車を自己のために運行の用に供していたものであるから自賠法三条に基づき原告片山の身体に生じた損害を賠償すべき責任がある。

3  損害

(一) 原告片山の損害

(1) 療養費等 一八万三六六〇円。その内訳は、入院雑費として一日あたり五〇〇円、入院日数二七五日分合計一三万七五〇〇円。通院交通費合計六一六〇円。付添費一日分二五〇〇円として一六日分合計四万円。

(2) 得べかりし利益 一三二六万九九五四円。原告片山は本件事故により昭和五二年七月七日から同五三年六月三〇日まで三五九日間欠勤し、欠勤開始の六か月後である同五三年一月七日からの休職期間中は本俸(同五二年一一月から同五四年四月までの本俸二一万〇九〇〇円)の八割が支給されたので給料減額分二五万二一九〇円、特勤手当資格喪失分二万二〇〇〇円、期末勤勉手当減額分二五万四八六八円、通勤手当資格喪失分二万三四八五円、以上合計五五万二五四三円の休業損害を被つた。

また原告片山は本件事故当時五一歳で年収三三五万五〇七五円を得ていたが本件事故により労働能力の三五パーセントを喪失したので残存就労可能年数を一六年としてライプニツツ方式(係数一〇・八三)により計算すると逸失利益は一二七一万七四一一円となる。

三三五万五〇七五円×〇・三五×一〇・八三

(3) 物損 六〇万円。被害車は、本件事故により右前部フエンダー、バンパー等前部が大破し廃車としたので、車両損失として五〇万円、被害車の保管料として一〇万円。

(4) 慰藉料 七一二万円。原告片山は、本件事故による受傷の結果右下肢の短縮、右膝関節拘縮、左頬部に約五センチメートルの瘢痕残存などの後遺傷害(第九級)を残すこととなり、歩行障害、右膝関節運動障害が生じ日常生活に種々の不便を強いられているほか看護婦としての執務上も不自由を余儀なくされており慰藉料としては、治療中のものとして一九〇万円、後遺障害について五二二万円が相当である。

(5) 弁護士費用 一〇〇万円。原告片山は、訴訟代理人に対し本件訴訟の提起追行を委任したので被告らが本件事故と相当因果関係のある損害として負担すべき弁護士費用としては一〇〇万円が相当である。

(6) 損害の填補 原告片山は、障害補償として自賠責保険より二三五万円の支払いを受けたので、右金員を前記(4)の慰藉料のうち後遺障害分五二二万円の内金に充当する。

(二) 原告地方公務員災害補償基金

(1) 損害賠償請求権の取得 原告地方公務員災害補償基金(以下原告基金という。)は、地方公務員災害補償法三条に基づき設立された公法人であるが、原告片山は本件事故当時和知町の地方公務員で和知診療所の看護婦長の職にあり本件事故が原告片山の通勤途上に起つたものであつたため原告基金は同法二六条、二九条により、別紙一覧表記載のとおり、昭和五二年一〇月二五日から同五三年七月一五日まで四一二万三八六〇円の療養補償を、同五四年五月二五日九四万一八二九円の障害補償をそれぞれ行なつた。よつて原告基金は同法五九条一項により原告片山が被告らに対して有している損害賠償請求権を右補償の限度において代位取得した。

(2) 損害の填補 原告基金は昭和五四年五月四日右のうち療養補償の内七五万四八〇六円を自賠責保険から受領した。

(3) 弁護士費用 原告基金は訴訟代理人に対し本件訴訟の提起追行を委任したので弁護士費用としては二〇万円が相当である。

よつて、原告片山は本件事故による損害賠償の履行として被告らに対し各自一九八二万三六一四円及び弁護士費用を控除した一八八二万三六一四円に対する本件事故発生後である昭和五三年六月六日から弁護士費用一〇〇万円に対し本件訴状送達日の翌日以後である昭和五五年一月二三日から各支払ずみまで民法所定利率年五分の割合による遅延損害金の支払、原告基金は原告片山から取得した損害賠償請求権に基づき被告らに対し各自四五一万〇八八三円及びこれに対する本件事故発生後であり本件訴状送達日の翌日である昭和五四年八月二五日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する被告らの認否及び抗弁

1  請求原因1の事実のうち、被告山川が対向車線内に加害車を進出させたことは否認し、原告片山の受けた傷害の内容、程度は知らない。その余の事実は認める。

請求原因2は争う。

請求原因3の事実のうち、(一)の(1)ないし(5)は知らない。同(6)のうち原告片山が自賠責保険から二三五万円の支払いを受けたことは認める。(二)の(1)は原告基金が地方公務員災害補償法三条により設立された公法人であることを認め、その余の事実は知らない。同(2)(3)は知らない。

2  本件事故は国道上のカーブにおける正面衝突であり、原告片山にも前方注視を怠り中央線に寄りすぎて直行した過失があり、その過失割合は三〇パーセントであるから損害額の算定に当つては過失相殺されるべきである。

三  抗弁に対する認否

抗弁事実を否認する。

第三証拠 〔略〕

理由

一  事故発生の状況

昭和五二年七月七日午前七時二五分頃京都府船井郡和知町字本庄小字高瀬五の一番地先国道二七号線において被告山川博行運転の加害車が時速約六五キロメートルで北進中対向してきた原告片山一子運転の被害車と衝突したことは当事者間に争いがなく、この事実といずれも成立に争いのない甲第四号証、同第五号証、同第八ないし第一一号証、同第一三号証、同第一四号証の一ないし三、同第一五号証、同第二四号証、証人片山はるの、同片山雅栄の各証言、原告片山一子、被告山川博行の各本人尋問の結果(但し、後記措信しない部分を除く)及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件事故現場は京都から綾部方面に向う国道二七号線上にあり車両通行帯は幅員約五・四メートルでセンターラインにより北行、南行二車線に区分され、一車線はそれぞれ幅員約二・五ないし二・八メートルであること、国道二七号線は本件事故現場付近において京都から綾部方面(北方)に向いゆるやかな左カーブとなつており制限速度は時速五〇キロメートルであること、事故当時現場付近の天候は雨あがりないし小雨模様でそのため路面は湿潤しスリツプしやすい状態であつたこと、被告山川は加害車を運転し時速約六五キロメートルで北進し本件事故現場に差掛つた際前方約五一・八メートルの対向車線上を南進し接近してくる原告片山運転の被害車を発見し危険を感じて直ちに減速のため急制動措置をとつたところ加害車はカーブに従つて進行できずそのまま対向車線寄りに約二三メートルスリツプするとともに加害車の右前部が約〇・五メートル(車幅の約三分の一)対向車線内に進入する形となり対向車線上を時速約五〇キロメートルで南進してきていた被害車の左前部に加害車の右前部を衝突させたこと、この事故の結果原告片山は入院加療二七五日間(後記のとおり)を要した右大腿骨々折、右下腿開放性骨折、右肘頭骨折、顔面挫創、頭部外傷等の傷害を負い昭和五三年六月六日症状固定したが、本件事故のため右足が約三センチメートル短縮し膝が曲り難く正座できず坂道や階段を歩行するのに不自由を覚える膝関節の機能に著しい障害を残す後遺症を残していることを認めることができる。

被告山川本人尋問の結果中右認定に反する部分は前記各証拠に照し直ちに採用することができず他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

二  責任原因

(一)  被告山川の責任

前記事実によると、被告山川は路面が降雨のため湿潤していてスリツプしやすい状態にあり、かつ道路が進行方向に向いカーブになつていたため滑走した場合には自車が対向車線内に進入する可能性が十分あつたから、制限速度を遵守するのは勿論あらかじめ減速して急激な制動措置を避けハンドル操作を確実にして自己運転車が対向車線内に進入することを回避すべき注意義務があつたのにもかかわらずこれを怠り高速度のまま進行し不用意に急制動の措置をとつたため対向車道上に滑走させて本件事故を生じさせたものであつて被告山川には右注意義務を怠つた過失があるものというべきである。よつて、被告山川は民法七〇九条により本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。

(二)  被告大塚の責任

いずれも成立につき争いのない甲第四号証、同第六号証、同第一五号証、被告山川博行本人尋問の結果によれば、本件事故当時被告大塚は加害車の所有者であり被告山川が被告大塚の息子である大塚康夫より右車両を借り受けていたものであることを認めることができる。右事実によれば、被告大塚は本件加害車を自己のために運行の用に供していたものであつて、自賠法三条により本件事故により他人の生命又は身体について生じた損害を賠償する責任がある。

三  損害

成立に争いのない甲第四、第五号証、同第一三号証、同第一四号証の一ないし三、同第二五号証の一、二、同第二六、二七号証、同第二八号証の一、二、同第二九ないし第三三号証、同第三四号証の一ないし五、同第三五ないし第六二号証、被告山川との間で成立に争いなく、同大塚との間では公務員が職務上作成したものと認め真正に成立したものと推認すべき甲第六三、第六四号証、原告片山一子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると次のとおり認めることができる。

(一)  原告片山の損害

(1)  療養費 原告片山は本件事故により昭和五二年七月七日から同五三年四月七日まで合計二七五日間京都府船井郡八木町大字八木小字上野二五番地公立南丹病院に入院しその後同月八日から同年六月六日までの間に六回に亘り同病院に通院治療し、同年四月二〇日から同年五月三一日まで九回に亘り同府同郡和知町字本庄小字今福五番地国民健康保険和知診療所に通院治療した。原告片山は本件事故後シヨツク状態に陥つていて絶対安静を必要としまた受傷、手術後も同年九月八日までは付添を要する状態であり同年七月七日の受傷日から同月二一日までの一五日間は原告片山の義妹小松祥子その他の身内の者らが原告片山に付添看護していた。

原告片山は、右入院期間中入院雑費として一日あたり少くとも五〇〇円を要したから入院期間二七五日間の合計額は一三万七五〇〇円であり付添費として少くとも一日あたり二五〇〇円を要したからその一五日分の合計額は三万七五〇〇円(なお、昭和五二年七月二二日から同年九月八日までの間の付添看護費は原告基金より療養補償として支払われている。別表参照。)である。以上合計一七万五〇〇〇円をもつて本件事故と相当因果関係のある損害と認める(なお、要した治療費は別表記載のとおり原告基金により支払われた。)。

また、原告片山は、通院中の交通費を損害として主張するけれどもこれを認めるべき証拠はない。

(2)  得べかりし利益 原告片山は本件事故当時前記和知診療所に看護婦として勤務していたが昭和五二年七月七日から同五三年六月三〇日まで三五九日間欠勤し、欠勤開始六か月後の同五三年一月七日から同年六月三〇日まで休職扱いとなり休業補償費として本給月額二一万〇九〇〇円(但し、同五四年五月一日以降昇給)の八割の支給を受けその間合計二六万九五七〇円の支払を受けられずまた欠勤、休職により期末勤勉手当として各八割である昭和五三年三月支給分二万四三六〇円、同年六月支給分二四万四八三二円を受領し差額六万七二九八円の支給を受けられずさらに特別勤務手当一か月当り二〇〇〇円その一一か月分合計二万二〇〇〇円の支給をそれぞれ受けることができなかつた。しかしながら、原告片山は昭和五三年七月一日以降再び和知診療所に復帰して勤務し従前と変わらぬ給料の支給を受けているから、逸失利益としては右勤務再開後は現実にはなく、前記後遺症による労働能力減少分は慰藉料の額を算定する上で考慮するのが相当である。

なお、原告片山は本件事故による休職により六か月間定期昇給を延期させられているけれどもこれによる損害額を算定する資料はない。

以上によれば原告片山の被つた損害は以上合計三五万八八六八円であつてこれが本件事故と相当因果関係のある損害である。原告は、右の外通勤手当を受給できなかつたことによる損害を主張するけれども原告は休職中通勤していないのであるから支給されるべき通勤手当をもつて損害とすることはできない。

(3)  物損 原告片山所有の被害車が本件事故により右前部フエンダー、バンパー、ラジエーターグリル等が大破し五〇万円相当の損害を被つた。原告は、右のほか被害車保管のため約一〇万円の支出を要した旨主張するけれどもこれを認めるべき証拠はない。

(4)  慰藉料 原告片山は大正一四年一二月六日生まれの健康な女子で本件事故当時五一歳であつて本件事故により右下肢が左下肢に比べ約三センチメートル短縮し、顔面左頬部に約五センチメートルの瘢痕を残していること、六か月間定期昇給を延期させられたことその他本件事故の態様、過失の程度、負傷の部位程度治療経過、後遺症の程度等本件に顕われた一切の事情を考慮すれば、原告片山の精神的苦痛を慰藉すべき額としては七〇〇万円が相当である。

(二)  原告基金の損害

原告基金が地方公務員災害補償法三条に基づき設立された公法人であることについては当事者間に争いがなく、前記認定事実といずれも成立に争いのない甲第二五号証の一、二、同第二六号証、同第二七号証、同第二八号証の一、二、同第二九ないし第三三号証、同第三四号証の一ないし五、同第三五ないし第六二号証、証人西川仁章の証言及び、弁論の全趣旨を総合すれば、原告片山が本件事故当時和知町の地方公務員で和知診療所の看護婦長の職にあり本件事故は原告片山の出勤途上の事故であつたこと、原告基金は別紙一覧表記載のとおり昭和五二年一〇月二五日から同五三年七月一五日までの間に合計四一二万三八六〇円の要した治療費について療養補償を、同五四年五月二五日に九四万一八二九円の障害補償をそれぞれ行なつたことを認めることができる。

右事実によると、原告基金は右損害補償により地方公務員災害補償法五九条一項により原告片山の被告両名に対する損害賠償請求権を右補償の限度で代位取得した。

四  被告は、過失相殺を主張するけれども、前記各証拠によれば、本件事故現場は非市街地で路面は平担であつて前方の見通しは良好であつたこと、原告片山運転の被害車はセンターライン寄りを走行しており原告片山は対向車線内を北行して接近してくる加害車を事前に認めることなく時速五〇キロメートルのまま進行していたことを認めることができるけれども、原告片山としては特別の事情がない限り対向車がセンターラインを越えて自車線内に進入してくることまでも予期して運転すべき注意義務はなかつたものといわなければならない。そして、本件事故現場が京都方面から綾部方面にかけてゆるやかなカーブとなつており本件事故当時は天候不順のため路面は湿潤していてスリツプしやすくセンターライン付近における対向車との接触ないし衝突事故を惹起しやすい状態にあつたことが認められるけれどもこれをもつて本件事故の発生について原告片山に過失を認めるべき情況とすることはできない。

五  原告片山が本件事故に関し自賠責保険から障害補償として二三五万円の支払いを受けたことは当事者間に争いがなく、原告基金は前記障害補償金九四万一八二九円を原告片山に支払いこれを本訴において被告らに求償しているのであるからこの範囲で原告片山の請求額から控除し、原告基金が原告片山に対して行なつた療養補償につき自賠責保険から七五万四八〇六円の支払いを受けていることは原告基金の自認するところであるから、これを控除すると、原告片山につき四七四万二〇三九円(但し、被告大塚に対しては物損による五〇万円を控除した四二四万二〇三九円)、原告基金につき四三一万〇八八三円がそれぞれ請求しうべき損害額である。

六  弁護士費用 原告らが、弁護士に本件訴訟の提起、追行を委任していることは記録上明白であり、弁護士費用のうち本件事故と相当因果関係のある損害として被告らにおいて負担すべき額は本件訴訟の経過、認容額その他諸般の事情を考慮して原告片山の請求につき三五万円と認めるのが相当である。しかしながら、原告基金の被告らに対する本訴請求は不法行為による損害賠償請求権に基づくものではなくこれを補償したことによる代位請求であるから原告基金の要した弁護士費用は被害者の被つた右不法行為と相当因果関係にある損害とはいえず、弁論の経過よりみると、被告らによる抗争が争うべき正当な理由もないことを知りながら応訴権を濫用し徒らに原告基金に損害を与えたもので不当なものともいえず違法性を認めることができないから、同原告の弁護士に要した費用の請求は失当というべきである。

なお、弁護士費用に対する遅延損害金の起算日は本判決言渡日の翌日とするのが相当である。

七  以上によれば、原告片山の請求については、被告山川に対し五〇九万二〇三九円及び内四七四万二〇三九円に対する本件事故発生後である昭和五三年六月六日から、内三五万円に対し判決言渡の翌日である同五六年一月二二日から、被告大塚に対し四五九万二〇三九円及び内四二四万二〇三九円に対する昭和五三年六月六日から、三五万円に対する同五六年一月二二日から支払ずみまで、それぞれ民法所定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において、原告基金の請求については被告らに対し各自四三一万〇八八三円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五四年八月二五日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度においてそれぞれ理由があるからこれを認容し、原告両名のその余の請求はいずれも失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条九二条九三条を、仮執行宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田秀文)

(別紙) 原告基金の原告片山一子に対する療養補償、障害補障給付一覧表

〈省略〉

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